「ゴラァー! テメェーなんか知らね−よ、放せよクソババァ!」
「アンタのせいよっ、アンタのせいよっ! きー」
道を歩いていると突然香ばしい怒声が聞こえたので足を止めて見物していると、真っ黒いサングラスを掛け派手なアロハシャツを着た放送コードぎりぎりのオバサンが、ベッカムヘアーでアタッシュケースを持った若いチンピラ風の男に掴みかかっていた。
交番の近くだったため、すぐにそのオバサンは取り押さえられ連行されたが、アドレナリンが分泌したままの男は肩で大きく息をしながら野次馬をかき分けこちらに歩いてきた。ヤバい奴が近寄って来るなーと思っていたら。
「いやーどうもー、お久しぶりです。お元気ですか?」
と、その男は笑顔で俺に話しかけてきた…。よく見たら闇金融をやってる後輩だった……。
「おお…、久しぶりだな。つーか、誰だよあのオバさんは」
「いや、全然知らない人なんですけど、突然つかみ掛かってきたんですよねー。この前も同じようなことがあったんですけど、物騒な世の中ですよね」
「…ふーん。まあいいや。とにかく久しぶりだし立ち話も疲れるからどこかでお茶でもしよう」
そういって近くの居酒屋で小一時間話すことにした。
この後輩は何の仕事をしても遅刻や無断欠勤をくり返し、すぐに仕事を変えてしまうのだが、金融の仕事はよほど肌に合っているのか金がいいのか、毎日朝9時から夕方6時まで昼食の時間も
惜しみながら働いているようだった。
闇金融といえば、ひと昔前は漫画「ミナミの帝王」に代表されるように『トイチ(10日で1割)』の金利が有名であったが、数年前からは『トサン(10日で3割)』が普通になり、トイチで営業してるところは良心的だと喜んで借りる時代になった。
で、この後輩のところの金利は幾らなのかと。トイチなのかトサンなのかと問い詰めてみた。すると……。
『え、金利ですか。ウチは「トジュウ(10日で10割)」です
かね』
「ハァ?トジュウ?…。そんなのあるんだ。初めて聞いたよ。それって30万借りたら60万にして返すんだろ。…それにしてもよく貸す資金があるなぁ」
「資金はほとんどいらないんですよ。なんせ2万円しか貸しませんからね」
よくわからなかったので詳しく聞いてみると、担保も保証人もつけず名前もほとんどが偽名の人達に貸すため、とりあえず2万円を10日後に4万円にして返すことを信用とするらしい。でも、その間いろんな約束事を確実にまもらなくてはいけなくて、返済日に1分でも遅れてはいけないとか、何曜日の何時に電話しないといけないとか、10個ぐらいの細かく面倒な決まりがある。
しかし、全ての約束事をクリアーしたとしても、後から色んなイチャモンをつけそれ以上は絶対に借さないので、4万円を返済したはいいが、目的の金額を借りることはできないらしい。
「……ふーん。ていうことはあれか、金利の2万円を毎日数人から集めるのが仕事ってことか。でもさ、それって捕まるんじゃねーの。ヤバイんじゃねーの」
「まあ、一言でいうと詐欺ですね。自分も今、執行猶予中ですし、喧嘩一回でパクられますよ」
「…へーなるほどね。だからさっきのオバさんに手を出さなかったのか。でも、よく考えたらあのオバさんってお前が覚えてないだけで客だったんじゃねーの」
「さぁ…そうなんですかね。全然覚えてませんよ。毎月、数百人は貸しますからね」
まったく物騒な世の中だ。まさに、血だらけになって倒れているラクダの、くるぶしに残った最後の血の一滴を抜き取るような仕事である。借金する理由はいろいろあると思うが、漫画の世界を超えるような金利にはご用心。