第8回




モラルって何ですか?





 最近といえば、すっかり喫煙者に厳しい世の中になってきました。嫌煙者からは高いところから見下ろされたような冷たい目でみられ、時代遅れ、人間のクズ、低能者、殺人鬼、などと言われ、喫茶店で茶を飲むにしても隔離されたようなテーブルに座らされ、どこぞの地区にいたっては歩きタバコは2千円の罰金とか言うフザけた条例まで出る始末。
 まーそんな健康オタクの戯言などまったく気にせず、バンバン歩きタバコをしているケンシロウです。
 先日、昔の上司とばったり会い、ちょうどお昼時だったので一緒にランチを食べることにしました。ゆっくり歩いて10分くらいの所に旨いパスタ屋があるというので、人通りの少ない歩道をポクポクと歩いていると、その上司も歩きタバコ肯定派なのかスーツの内ポケットからラークマイルドを取り出したので、二人してぷかぷか吸いながら歩きました。
 しばらくしてタバコの火を消すため灰皿を探してキョロキョロしていると上司は言いました。
「あーダメダメ。今、ポイ捨てしようとしてるでしょ。ポイ捨。いけない事だよ、社会のルールだからね。俺も昔はしてたけど」
 などと、まるでJTのコマーシャルで緒方拳が喋るセリフのような道徳的なことを延々と聞かされました。
「今はねーこれだよ、これ!」
 と、カバンの中からドラえもんのような勝ち誇った顔で、ぱんぱんに吸殻が入っている携帯灰皿を取り出しました。
 なるほど確かにこれを持っていれば灰皿の少なくなった昨今でも捨てる所を探すことなくタバコの火を消すことができるな。と上司の差し出した携帯灰皿を拝借して火を消しました。
 ようやく目的地のパスタ屋がみえてくると先程カバンにしまったばかりの携帯灰皿を上司がまた取り出しました。あれ? 店はすぐそこなのにまたタバコを吸うのかなぁ。あ、もしかしてそのパスタ屋は全面禁煙の店で中では吸えないから今のうちに吸い溜しようとしてるのかな。と、不安を隠せない表情で上司の行動を見守っていると。
「ザァァァー、バラバラバラッ…」
 俺の目に映った光景は先程まで紳士的に道徳心を説いていた上司が、歩道に生えている雑草めがけて携帯灰皿の口を真下に向け溜まった吸殻を勢いよく捨てている様子でした。
「ポ…ポイ捨てじゃないけど、それって……」
 これには俺も唖然としたが何事もなかったかのように堂々と店の扉を開ける後ろ姿にツッコミの一つも入れるのを忘れました。

灰皿の中身はゴミ箱へ…