●4時44分 -part3-
逃げ道を探しながらゆっくり走行していると、ある事に気がついた。連雀通りのこの辺は小道ばかりで曲がれるところがねーじゃん。狭すぎるっつーの。どうなってんの、この道。これじゃあ逃げるに逃げられないよ‥‥‥。
後ろの押売り達も、ここは容易に停められないことがわかったのか、荒勢も膝から白い紙袋を降ろし、また腕組をして出番を待っていた。
どのくらい時間が経ったのだろう。えらく長い時間に思えた。背後から無言のプレッシャーをかけるヤクザの車からは、刺すような視線がビンビン伝わり、軽いストレス状態の中、焦りで嫌な汗もかき興奮状態で身体が熱く感じた。
早く、早く、この地獄から脱出しなければ‥‥。
「カン、カン、カン、カン」
前方に見える西武多摩湖線の踏切りの警報機が鳴った。
勝機! これだッ!!!
ここで一気にブッチぎれる! 今まら前に車もいないし、オレだけ渡りきれば後ろの車を踏切りで足留めできるぞ!
オレは迷わずアクセルを踏んで回転数を上げた。
が、ちょっと距離があったので、みるみる遮断機が降りてきた。
「カン、カン、カン、カン」
警告音が大きく聞こえた。間に合うのかッ? 行けるのかッ? オレは自分自身に問いかけた。その時、一瞬、さっきの「444は死の数字」という言葉が頭をよぎった。死‥‥?。
死の恐怖がオレをおそった。もしや‥オレは踏切りを渡れず線路で立ち往生して電車にぶつかって死ぬのか‥‥。こんなところで‥‥?。
そう思ったとたん恐怖心でアクセルから足を離していた。
いやッ! そんなのはオレの妄想だ。単なる思い込みにすぎねーよ。どんな時でもポジティブがオレの信条だ。躊躇してるヒマはない。行ける、行ける、行ける、行ける、行ける。
「行くしかなあああああ〜〜〜〜〜〜いッ!」
ネガティブな感情を打消すがごとく自分を盛上げると、アクセルをベタ足で押し潰すように踏み込み、スピードを上げて強硬突破の姿勢をとった。
国産初のターボエンジンを搭載した430セドリックは、ターボが効くまで動きが鈍いが、効いた途端「チュイィィーン」という音とともに身体がシートに吸い付くように急加速して、マッドマックスみたいにブッ飛ぶような感じがした。
全ての五感が視神経に集中した。オレは頭を下げながら祈るようにターボ全開で踏切りに突入した。
「何やってるんだオレええええええええええええええッ!」
閉りかけた遮断機に強引に潜り込むと、屋根を殴られたような気がしたが、構わずくぐり抜け、ガタガタガタガタッと線路のデコボコで車体が左右に激震し、サスペンションが悲鳴をあげてる音が聞こえた。
「なッ‥‥‥?!」
どうにか踏切りは突破したものの、前方の赤信号で停まっている車が5〜6台、オレの逃走を邪魔するかのように列をつくっていた。慌てて急ブレーキを踏みタイヤを唸らせると、踏切りを渡って直ぐのところで停まってしまった。
後方に見える線路は遮断機が閉じ、電車がガタンゴトン音をたてて走っていたが、時折見える車両の間からはヤクザの車が確認できた。
なんてこったッ! 早く変ってくれ、信号よッ!!
心臓のドキドキ感が更に増した。ヤバイ、ヤバイよッ。もう後には戻れない。今、逃げたことでオレのことを思いだしたらどうしよう。
「あん時の兄チャンやないかいワレえええええ! ワシを騙しとったんやなああああああ!」なーんて、激怒してるかもしれない。
「青、青、青、青、青。早く青に変ってくれえええええ〜〜〜ッ!!」
運を天にまかせて踏切りが開くより先に、信号が青信号に変ることを呪文を唱えるように願った。
冷汗をかきながらバックミラーと赤信号を交互に見つめていると、オレの期待もむなしく一瞬早く踏切りが上がり、ヤクザの車が線路を渡りはじめた。
「来たあああああッ!!」
つづく
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