●4時44分 -part4-
バックミラーに映る荒勢はオレの車を指差し、邪悪なオーラを発しながら怒りの表情で何かを叫びつつ、もの凄い勢いで助手席で暴れている様子だった。
「気付かれたああああああああ〜〜〜〜ッ?」
前方の信号も青信号に変って車が動きだしたが、後ろからガンガンに迫ってくるヤクザの車に追いつかれるのは目にみえていた。
ダメだ! もう‥逃げられない‥‥‥!
その時、
幸運にも線路沿いにある小道から紺色の車が一台出てきてオレとヤクザの車のあいだに割って入ってきた。
グット!! グットタイミング!!。
運の流れが変った瞬間だった。ちょうど後ろに来た車は、筑紫哲也に似たオジさんが乗るボルボだし、きっと制限速度を守って安全運転するに違いない。上手くいけば逃げられる。
ようやくオレの顔に生気が戻ってきた。前の車に続いて素早く走りだすと、後ろのボルボは期待どうりのトロい運転だったので、みるみる距離がひらいてきた。いいよ、いいよぉ〜。
ここにきて一車線なのが利となった。ヤクザの車はトロい運転のボルボを何度も追い越そうとしていたが、対向車線からはバンバン車が来ていたので、抜くに抜けない状態だった。
ヤクザの車から離れるごとに気分は晴れて余裕も出てきた。
そのままスピードにのって走行していると手前の信号が黄色に変ったので、また、ターボを効かせて加速しながら交差点を渡りきると、後ろから来たボルボは当然のように赤信号で停まったので、同じくヤクザの車も停止した。
「ふぅ〜‥‥。もう安心だ、これで完璧に逃げられる。やっと地獄から開放されたよ。ありがとう、ボルボ」
心の中でボルボに感謝しながら、バックミラーの中で、だんだんと遠くに小さくなるヤクザの車に「あばよ」と別れを告げた。
ヤクザの車が視界から消える頃には心拍数も平常に戻り、また、いつもどうりの穏やかな平和がやってきた。
でも、イベントの終わりは嬉しいようでちょっと寂しい感じがした。
怖い思いをしたものの、もう追ってこないのがわかると急につまらなくなり、もの足りなさが残った。
オレは複雑な心境に駆られ、迷いながらも、ゆっくりとブレーキを踏むとハザードランプを点滅させて路肩に停まった。
そして、身体をひねって振り向き、後ろの光景をボーと見ていた。
なんだかんだ言って面白かったな‥‥。
もう追われるのは二度とゴメンだけど。
オレがここに居るのわかるかな? まだ追いかけてくるのかな?
まあ、追いかけてきたらまた逃げるんだけどさ。
え? また追いかけっこするのかよ‥‥。だったら素直に、今、帰ったほうがいいかな。こんなバカな事しても意味ないし。‥‥‥でもなーもう少しだけドキドキするのもスリルがあって面白そうだしなあ‥‥‥。
理性と好奇心を天秤にかけ、初めて万引きをする子供のような顔で待っていると、遠くからノロノロ運転のボルボに続いてまたヤクザの車が見えてきた。
お、来た来た。
よし、じゃあ50メートルまで接近したら逃げよっか。いや、30メートルでも大丈夫かな。うーん、よく考えたら降りてくるまで安全なんじゃないの?
と、右手をハンドルに置き、いつでも発進できる状態を保ちながらバトンをまつリレー選手のように注目していると、突然、ボルボがハザードランプを点滅させてヤクザの車と一緒に路肩に停まった。
あれッ?‥‥。
その直後、逆光の夕日の中、白い紙袋を持った荒勢がボルボに向かって走る姿が見えた。
あっ?、あ〜あぁ‥‥。なるほどね‥‥。
そっか、そうだよな‥‥‥。
別にオレだけが獲物ってわけじゃないしな。ターゲットが切り替ったわけね。な〜んだ。へぇー‥‥。
オレは2〜3週間前の自分の姿をオーバーラップさせ、ビデオを見てるような気分でボーと口をあけながら見学していた。
何も知らずに可哀相にな、あのボルボ。なんかオレの身替わりになったみたいで悪いけど‥‥。
まあでも、トランプでいうところのババ抜きだな。あの瞬間にオレが持っていたジョーカーはボルボに渡ったんだな。
オレは荒勢が助手席に乗り込んで、ボルボのオジさんがビックリして飛び上がったところで見るのをやめた。
オレにはどうすることもできないしな。どのみち暴力は振るわれないだろうから大丈夫だよオジさん。あとは現金を持ってないことを祈るよ。
少し後味が悪く感じたが、また、笑顔でアクセルを踏んで家へと向かった。三鷹と書いてある標識にオレンジ色の夕日が反射してとても綺麗だった。あ、そういえば吉祥寺のパルコで、絵具、買って帰らなきゃ。
おわり
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