●横浜ドライブ -part1-
オレは真夜中の横浜でにこやかにハンドルをにぎっていた。
その日は、ひさしぶりに立美の頃の数人の面子とドライブし帰る途中だった。
助手席にムスメ。その後ろにマリエッタ。後部座席まん中にはチエが座っていた。この女3人組は九州出身の仲良しトリオで、立美を出てバラバラの学校に通いながらもよくツルんでいた。男はオレと後ろにいる福田。
しめて5人。前回のヤクザにカラまれてから2ヶ月後の出来事だった。
中華街ですごい量の料理を鬼のような食欲で食べまくり、重たい身体をひきづりながら中国雑貨などのお土産屋をまわって目の保養。カラフルな色彩の街をねり歩き、山下公園に移動すると海辺の散歩道でカップルからの冷たい視線にも目もくれず、奇声を発しながら汗をかくほどの鬼ごっこ。
終始、異常なハイテンションでしゃべりまくり笑いまくり、立美にいたあの頃と同じノリでドーパミンを出しまくりながら狂ったように盛り上がった。
昼間に会ってから途切れるとこなく騒いでいると、さすがに疲れたのか、みんなシートに深く座って12Rを闘ったあとのボクサーのように身体をやすめていた。
この時間になると異国情緒ただようこの街は貸しきりのように静かだった。オレはライトアップされたレトロな建造物の美しさに心奪われながら2車線の道路右側をなめらかに気分よく走行してた。
ムスメ「うひょひょ。ねえ、デザートの杏仁豆腐、超おいしかったよね」
チエ「だよね〜。あたしは海老チリにも感動したわ〜」
マリエッタ「わたしはチャーハン」
オレ「だれだよ最後の方でチャーハンとヤキソバ追加しやがったのはよ。腹パンクするかと思ったよ」
チエ「それ、あたし〜」
オレ「びっくり人間じゃねーんだからよ。限度ってものを考えろよ」
チエ「なによアンタ。電動コケシみたいな頭してるくせに〜」
福田「ふははは」
ムスメ「うひょひょ。似てる似てる」
マリエッタ「やーい。電動コケシ」
オレ「フザケンナよ、マリエッタ。そのへんの海に沈めるぞ」
マリエッタ「ナニよ、やってみなさいよ。すーぐ、わたしだけ責めるんだから」
オレ「おまえがいうのは100年はやいんだよ。ギャオスみたいな顔しやがって」
ムスメ「うひょひょひょ。そういえば鬼ごっこで走ってる時、マリエッタ、悪魔のような顔で追いかけてたよね。ひょひょひょ」
マリエッタ「ナニよ、ムスメまでケンシロウの味方して」
オレ「確かに。泣き真似から笑いながら振り向いた時なんか本物の悪魔に見えたよ」
マリエッタ「だって、わたしばーっか、みんなで鬼にするんだもん」
福田「でも、鬼のマリエッタが一番たのしそうだったぜ」
チエ「うんうん。やあ〜ぱ、鬼はマリエッタしかできないわよね〜」
マリエッタ「まーた、みんなでわたしをからかって。もう鬼やらないからねー」
ムスメ「うひょひょ。それだけ人気があるのよ」
福田「そうだそうだ」
チエ「福ちゃんも長い髪をなびかせながら汗びっしょりだったよね〜」
ムスメ「うひょひょ。まだ寒いんだから風邪ひかないようにね」
車内はこんな感じで、疲れていながらも口だけはひらいて会話していたが、背中はシートにつけたまま、来る時のように身を乗り出してしゃべることもなく、遊び疲れた子供のように大人しくなり、眠さも加わってか沈黙するとスピーカーから流れるモータウンの曲だけが聞こえた。
無理もない。いかにタフなオレたちでも睡魔には勝てない。この時間なら東京までもすぐだ。みんなを家に送り届けて早く眠りたい。家のベットが呼んでいる。
ベイブリッジもレインボーブリッジもない時代。オレは一般道をつかって横浜の街を去ろうとしていた。
だが、この時すでに、事件が起こっていたことをオレは知らなかった。
13R開始のゴングはマリエッタのひとことで始まった。
つづく
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