第27回





●横浜ドライブ  -part2-


 
 
マリエッタ「ねぇ‥。チエちゃん、今、拍手したでしょお?」

チエ「ええ?‥‥あたし拍手なんてしてないよ〜」

マリエッタ「だって、そっちから音がしたもん」

チエ「な〜にいっての? 疲れているのよ。気のせいよ〜」

マリエッタ「ウーソよー?! わたし見たもんッ!」

チエ「してねっつーのッ!! あんたが自分でしたんじゃないの〜?」

マリエッタ「絶対、拍手したわよッ! さっきから“パンッパンッ”って音が聞こえるもんッ!」

チエ「幻聴じゃないの。とにかく、あたしじゃないからね〜。ぷん」

ムスメ「うひょひょひょ。ね〜どっちが屁をこいたの?」

福田「屁かよっ? ふははは」

マリエッタ「バッカじゃないの。ヤメテよ、ムスメまで」

チエ「いいだしっぺが怪しいわよね〜」

オレ「おい、後ろで醜い争いしてんじゃねーよ。どうせ、またマリエッタが腹でもヘった音だろ。東京に着くまで我慢しろよ」

マリエッタ「お腹なんてヘってないわよ! 絶対、わたしじゃないもん!」

 いつものようにマリエッタが訳のわからないことをいった。オレは気にすることもなく前を向いたまま運転に集中していた。茶化す体力などもう残ってない。

マリエッタ「あ‥ほらぁーまた“パンッ”て聞こえた。チエちゃーん、からかってる んでしょー?」

チエ「きー。あたしじゃないも〜〜んッ!」

オレ「わかったよマリエッタ。じゃ音楽のボリューム下げるからさ、みんなで静かにしてみよーぜ」

 マリエッタの真剣な様子に少しだけ嫌な予感がした。ボリュームを最小まで下げると車内はシーンと静まりかえり、みんな動きをとめて耳をすました。聞こえるのはアスファルトにタイヤがコスれる音と、車のボディーが風をきる音。やはりマリエッタの気のせいかと思った。
 

 ‥‥‥‥‥パンッ。


福田「あ、ホントだ。聞こえるな」

マリエッタ「ほーら、ごらんなさい」

チエ「でも‥何の音、コレ?」
 

 ‥‥‥‥‥パンッ。


オレ「なにかが破裂するような音だな。車が故障したのかな‥‥?」

ムスメ「タイヤのパンク…?」

 オレの耳にも確かにその音は聞こえた。マシントラブルを疑ったオレは、スピードを落としながら音の発信源を耳で探した。

 
 ヴォボボボボボボッ‥‥‥。


 低速で走行すると、どこからか地鳴りのような音もかすかに聞こえることがわかった。(なんだ? いよいよガタがきたのか、この車。まいったな‥‥‥)


「ぎゃあああああああああ〜〜〜〜〜ッ! 窓の外ッ! 窓の外ッ!!」


 チエが突如、体をのけ反りながら大声でマリエッタ側の窓を指差した。


 ええ!? 


 オレはドキッとしながら後ろを振り向いて指差す先を見た。そこにはオレの車の左サイドを平行して走る“族車”が一台。後部座席の窓からは、シャブでもやってそうなニヤついたパンチパーマの男が身を乗り出し、両手で“ピストル”を構えている姿があった。


 うんぎゃああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!


 車内は突然パニック状態に陥り絶叫が響きわたった。
 どうやら先程からパンパン音がしてたのは隣の族車からオレの車の窓にBB弾を撃ちこんでいる発砲音だった。
 また心臓の鼓動がドキンドキンと脈打ち祭りの予感がした。


「銃口が、銃口が、こっちに向いてるうう。ねーこの窓、大丈夫なのッ?!」


 撃たれた窓に一番近いマリエッタは隣のチエに抱きつきながら心配そうにいった。オレは冷静に相手の持つ鈍く光った黒いピストルを観察していった。


「‥‥‥ベレッタ92Fのガスガンか。この至近距離で窓が割れないなら、たぶん、改造はしてねーし、弾も普通のプラスチックだろうから平気だよ。鉄のベアリング弾を発射できるほど改造してたら、とっくに窓なんか穴だらけだ」


「ねーッ見て! こっち、こっちも。‥‥イヤ‥‥怖い」


 助手席のムスメも慌てて窓の外を指差したので、前屈みになって覗きこむように族車の運転手に目をやると、やはりパンチパーマで凶悪そうな顔つきの男が窓枠に右ヒジを乗せてアゴをひき、眉間にしわをよせたまま三白眼でオレを睨みつけ、ガムを噛みながらお決まりのポーズで威嚇していた。


「うははははははッ!! マジかよ! またカラまれたよ!」


 その時ようやく気がついた。オレは“カラまれる確率変動”に入っていたことを。さすがに4回も続けて危険な人種に遭遇すると、恐怖よりも先に笑いがきた。オレは、睨みつけている運転手の顔をじっくり見ながら大爆笑していた。


「なッ? ホントだろ? マジでカラまれるだろオレ。今度は族車かよ、うはははははははッ」


「笑えないわよッ!! 早く逃げてえええええええ〜〜〜〜!」


 余裕があるのはオレだけで4人は声をハモらせ真剣な顔で恐怖を訴えた。そうか、オレは慣れているから平気だけど、こいつらには初めてのことだもんな。しかし、なんでこんなにカラまれるのかな。ほんと不思議だよ。






つづく