第28回





●横浜ドライブ  -part3-





ヴォンッヴォンッヴォンッヴォンボボボボボボボボボボボッ‥‥‥。

 オレに爆笑されたとたん族車の運転手は逆三角形の目を大きく見開きながら、もの凄く怒った顔でアクセルを空吹かし、改造マフラーの爆音が稲妻のように横浜の街に鳴り響いた。そのまま爆音とともにスピードを上げてオレを追い抜くと、蛇行運転しながら前を走り怒りをアピールしていた。

「んね〜ちょっとぉ‥‥。凄い怒ってんじゃないの、あの車〜」

 チエが震えるような声でいった。オレも族車が怒っている理由がわからなかった。いったいオレのなにが気にいらなかったのだろう。目の前で左右に揺れる4つの丸いテープランプを見つめながら思いあたるフシを考えた。

「ああ‥‥きっとアレだよ。オレが女4人乗せてると思ったんじゃねー? ほら、福田も肩まである長髪じゃん。奴らからは女に見えたんだよ。で、オレが運転手を見て笑っちゃったもんだからさ、バカにされたと思って怒ったんじゃねーの?」

「んもう〜、福チャンがそんなファラ・フォーセットみたいな髪型してるからよ。すんごい美人、乗せてると思われたのよ、きっと!」

 すかさずチエがつっこみをいれた。たしかに福田はこの中でいちばん整った顔で、どこかのハーフに見えなくもない。福田は首をかしげながら複雑そうな顔でいった。

「ええー? おれかよ‥‥」

 族車は更にスピードを上げて加速すると勢いよく車体を右にふり、キュキュキュキュッーとタイヤを鳴らしながら後輪をじょうずに滑らせてドリフトし、前方、約30メートルにオレの進行方向に対して道を塞ぐかたちで右の横腹を見せて車を停めた。

(ゲゲッ!‥‥‥通行止めかよ!)

 前を塞がれたオレはブレーキを踏んでその場で急停止した。族車は、一直線にのびるセンターラインの真上に対角線に停まっていた。これじゃあ右にも左にも通り抜けることはできない。対向車線の車もふくめ族車の近くを抜けようとする車は1台もなかった。
 あたりは静まりかえって人陰もなく、族車も真黒なフルスモークの窓を閉めて無気味に沈黙していた。
 対向車が照らすヘッドライトの灯りが、ちょうど族車の後ろからバックライトをあてたようになり、銀色のボディーのシルエットが浮かびあがって発光しているように見えた。その姿はエキゾチックな街の並木道に、突然、舞い降りたUFOにも見えた。敵ながらちょっとだけカッコイイ登場の仕方だと思ってオレは苦笑した。
 
 ここにきて、ようやく族車の車種が「スカイラインRSターボ」通称“鉄仮面”であることがわかった。太いタイヤにピカピカのアルミホイール。フルエアロが組まれた車高は地を這うように低く、極太のブッといマフラーが後ろに突き出ていた。

「ねぇ‥‥超ヤバくない? どうするの? これじゃ通れないよ‥‥」

 マリエッタが低い声で静かに口を開いた。オレは族車から目を離さずにこたえた。

「ああ‥ちょっと脅かしてるだけだろ? めんどくさい奴らだな。あんなので怖がると思ってんのかなぁ‥‥? どうせすぐに退くだろ? カッコイイと思ってるんだよ」

 少しのあいだ時間が止まったように何も動かなかった。ピーンと糸がはったような緊張の中、全員が前傾姿勢で身をのりだし固唾を飲んで族車の動きに注目していた。
 ちょっとすると、危険を察知した後続車が1台、2台とUターンをしている姿がサイドミラーに映った。最後にすぐ後ろの車もUターンして逃げだすと、オレの車だけがポツリと一台残った。

「んねぇ‥‥私達も逃げた方がいいじゃないの?」

 不安そうなチエが運転席と助手席のシートのあいだから顔を出してそういった。でもオレにはこの段階で逃げる理由がみつからなかった。

「大丈夫だって。オレはこんなの慣れてるんだから。どうせ何もしてこねーよ」
  
 と言った数秒後、

 族車の4枚のドアが乱暴にバーンとひらくと同時に、


「殺すぞッオラァあああああああッ〜〜! ナメてんのかコラッあああああッ〜〜!」


 いきなりビックリ箱がひらいたように、凄い勢いで殺気だった5人のパンチパーマの男達が怒声とともにこっちに走りながら降りてきて、手には全員ピストルを持ち、なが〜いライフル銃を構えている奴もいた。

「怖ぇえええええええええええええええええええッ〜〜〜〜〜!!」 

  全員が驚いて後ろにブっとび、背中がシートにあたった振動で車体がゆらゆら揺れた。ふたたび車内は恐怖の声がコダマし地獄絵図となった。奴らは弾を込めて攻撃準備をしていたのだ。全身にヒヤッと冷たいものが流れた。

 緊急事態発生に、オレは慌ててギアをバックに入れると、見えないほど速いスピードでハンドルをくるくる回し、タイヤをきゅーきゅー鳴らしながら左の歩道にケツをつっこみUターンの動作をとった。
 パンチパーマ達は運転手を先頭に横に5人並び、ビーチフラッグでもやるかのようにピストルを持った右手を前に伸ばしながら走っていたが、オレがUターンして逃げようとしてるのがわかると、少し戸惑いながらも足を止め、また族車に戻っていき、


「絶対、ブッ殺すからなッ! 逃がさねーぞッゴラああああああッ〜〜〜〜!」



 と叫びながらヤル気まんまんで追ってくる様子だった。とても冗談には聞こえない。
 心臓がバックンバックン音をたてながら暴れだした。オレは蹴るようにアクセルを踏込みスピンしながら反対車線に移ると、孟スピードで来た道を爆走して逃げた。








つづく