第31回






●道化師  -part1-






 暗闇の海辺でオレは岩に腰掛け目の前の黒い海を眺めていた。
 平らな岩はちょうど2人掛けのソファーほどの大きさがあり、握りこぶし3個分はなれ左隣には数時間前にナンパしたお姉さんのルカがいた。人であふれかえっていた昼間のビーチとは対照的に、夜のビーチは人陰もなく無人島にいるように静かだった。ようやく念願のツーショットになれたものの、無邪気に笑う聖子ちゃんカットのルカを横目にオレは顔で笑って心で泣いていた。頭上に輝く無数の星たちを見つめながらここ数日間のことを思いかえした。

 高校1年の夏休み。オレは地元中学の同級生11人で伊豆諸島に来ていた。

 80年代初頭は空前の新島ブーム。夏になるとマインドコントロールされるように連日テレビでは特番が組まれ新島の乱れた性の現状が放送されていた。

 新島に行けば必ずヤレる。

 そのフレーズは若者達の脳細胞と下半身を熱く刺激し、そんな定説を信じた若者達が大量に海を渡るという狂った時代だった。もちろんオレら11人も流行りにのって夏の解放区“新島”へむけて出撃。イレブンの思いは皆おなじ、新島ギャルにシュートを決めて大人の階段を一歩踏込むことだ。
 性のパラダイス新島へ。オレ達は気合いと期待をこめて新島行きのフェリーが出る港に集結。船乗場にあふれているヤル気まんまんのセクシーなギャル達を物色し、それを狙うライバルグループたちを牽制しながら出航時間を待っていた。しかし、イレブンの顔に笑顔はなかった。この年は台風の当たり年で外は凄まじい豪雨。台風12号が新島に直撃するとかしないとか、そんな情報が流れていた。荒れ狂う海を船乗場の窓越しに眺めていると、しょんぼり肩を落とした幹事が向こうから歩いてきた。

「‥‥新島行きは欠航だって。でも、大島までなら行けるみたいだからさ、そっちで宿とったよ。しょーがないよね‥‥」

「そっか‥‥」

 一同は新島のパンフレットを握りしめながら小さくうなずいた。かなり前から全員で予定をたて決めた日にち。今さら中止して家に帰ることなどできない。それにオレらが新島に行けないってことは他の奴らも同じはず。まわりを見渡すと旅行バックを持った様々なグループの口からも“大島”という単語が聞こえてきた。フィールドが変るだけで動機が変るわけじゃない。勝算はあるはずだ。こうして新島行きは断念、幻となって流れたが、その場で大島行きが決定した。

 雲ひとつない晴天の青い空。台風の通り過ぎた大島の海はとても綺麗だった。白い砂浜のビーチに陣地をとると血眼になって水着ギャルに声をかけた。オレらはものすごいフラストレーションが溜まっていた。というのも大島に着いた途端、見たこともないようなカミナリが鳴り響く暴風雨に襲われ、2日間、宿から一歩も外に出れなかったから。ナンパできるのはこの日しかない。まさに背水の陣だった。
 だが、ここでもイレブンの顔色はすぐに曇った。それは子供連れの夫婦や野郎ばかりが目立ち、肝心の水着ギャルが極端に少ないことだ。倍率が高過ぎる。船乗場にあれほどいたセクシーなギャル達はどこへいってしまったんだろう。なんか全体的に地味だし。おかしい、こんなはずでは‥‥。
 オレは伊豆諸島の地図を頭に思い描くと新島に比べて大島が何倍もデカいということにそのとき気がついた。どうやら新島を目指していたセクシーなギャル達は島のアチコチに分散されてしまったようだ。この旅行にむけて頭に描いていた思惑が音をたてて崩れていった。

 ビーチは少ない獲物を狙う無数のハンターの群れで戦場化。水着ギャルを取り合っての激しいバトルが至る所でくりひろげられていた。上質ギャルには黒山の人だかり。けれど最初から大島に旅行するつもりで来ている女子グループはガードが固く、下心丸出しの新島難民には簡単に応じなかった。しかも11人なんていう大人数のグループはどこを探しても見当らない。時が経つごとにイレブンの顔色は焦りへとかわった。

 昼の3時を過ぎ4時が近づく頃にはモチベーションも下がり焦りから諦めモードにかわる。野郎どうしで寝そべりサンオイルを塗りあって日焼けに徹する者や、砂でお城を作ったりして現実逃避する者がでてきて、すっかり敗戦ムード漂うただのホモ集団と化す。
 そんな中、元陸上部の部長で体育教師を目指して体育高校に進んだ筋肉の固まりがシビレをきらして立ち上がり、スクールウォーズの滝沢監督のような熱い眼差しでオレらを一喝した。

「おいッ! みんなッ! ここに何しにきたか思いだそうぜ‥‥。おれらナンパしに来たんだろッ! 女とヤリにきたんじゃねーのかよッ! もっと気合い入れてさッ、ダメもとでガンガン攻めようぜッ! 諦めるのはまだ早いよッ!」

 その一言で再度みんなの志気が上がり完成しかけたお城を足で壊すと、作戦を変えて2チームに別れローラー作戦で端から順番に手当りしだいナンパした。すると、意外とあっさり日が落ちる前に両チームともお姉さんのグループをゲットすることができた。はじめから作戦が間違っていたようだ。
 とはいっても夕方近くまで売れ残っていたグループ。形のいいあまそうな果物が残っているわけがない。それにオレがいたチームがゲットしたのは、まったく色気のない超地味な集団だったので正直うれしくなかった。
 さらに、少しだけビーチで遊んだのちカップル選択は女性陣に選んでもらうと、オレを指名したのはウルトラマンエースに出てきたヒッポリト星人によく似たルカという子だった。当たりのないクジ引きの中で最もハズレにちかい子がオレの担当になった。

 少年が大人になるには数々の試練を乗り越えなければならないのか。この時のオレは配牌からベタオリ。1ミリもヤル気がしなかった。間違いをおこすことなく、はやく島を出たいというのが希望にかわった。だが、この旅行、ほんとうの試練は夜になってからひっそりと起こった。


つづく