●日給2万円 (Part2)
確かに慣れてくると口調もスピーディーに押しも強くなり、ちらほら商品を買ってもらえるようになった。コツを得てくると楽しくなりドアからどんなひとが出てくるのかワクワクした。
100軒、200軒と売り歩くたびに簡単な統計がとれ、出てきたひとを一目見れば買ってくるかどうか予測できるようになった。が、やはり買ってくれるひとは少数。時間だけが過ぎていった。
会社帰りのサラリーマンが目立つ頃、オレらは事務所で清算を済ませこの日働いた分のアルバイト代を貰った。新宿駅までの帰り道はバイト中に仲良くなったヒデキという男も一緒だった。
一日中走りまわったので足は棒のよう。無言のまま3人で夜道を歩いた。貰った日給が目的額の2万円より少ないのは言うまでもない。重たい口をひらいて羽黒が聞いてきた。
羽黒「なあ‥‥幾ら貰ったんだよ?」
オレ「え?‥‥そっちはどうよ?」
羽黒「そういやさ、昼までに67個売ったヤツいたろ。あいつは夜までに何個売ったんだろうな‥‥。ていうか、アレ会社が用意したサクラじゃねーの。絶対あんなに売れないって。なんか騙されたな?」
オレ「そうだな。オレも夕方くらいに気がついたよ。あれだけ頑張って日給660円だぜ。シャレになんねーよ」
羽黒「え? 660円? バッカじゃねーの。時給じゃねーんだぜッ」
オレ「そっちは幾らだったんだよ?」
羽黒「650円だよ」
オレ「バッカじゃねーのオレら。笑う気力もねーよ」
羽黒「おいヒデキ。さっきから黙ってるけどお前は幾らだったんだよ?」
ヒデキ「‥‥‥‥‥」
オレ「ずっと一緒にまわってたんだし同じようなもんだろ?」
ヒデキ「‥‥‥‥おれ値切られたからな」
ヒデキは答えずにゆっくりと右手を開いた。日給10円を見た瞬間だった。
おわり