●ハダカ男 (Part1)
あの男は必ずオレのところに来る。オレの直感がそう教えてくれた。オレには自信があった。なぜならば、あの手のヤバい奴にカラまれるのはオレの宿命だから。時は95年、寝苦しい真夏の夜の出来事だった。
「殺すぞオラッ、マジで殺す。殺すコロス。殺すぞオラアアアアアッ!」
前方約60メートル。セカンドバックを小脇に抱え黒のスラックスに革靴、オールバックでチンピラ風の男が、香ばしい雄叫びをあげながらこっちに歩いてきた。
なぜか上半身はハダカ。
男は路上駐車している車や自転車を無差別で蹴りこみながら近づいてくる。危険だ。その言動と行動から一目で酔っぱらいだと理解できた。たらふく呑んで家に帰る途中だろう。何ごともなく無事に通り過ぎてくれればいいが。
昼間は賑わう商店街もこの時間帯はひと気がない。オレはそこに車を止め彼女と二人、歩道で立ち話をしていた。彼女にもしものことがあってはいけない。オレは万が一の事を考えて危険が去るまで隠れているよう指示をした。
彼女はオレがよくカラまれることを知らない。一応、指示には従ったが納得のいかない顔でオレの後ろにあるエレベーターホールに身を隠した。
男は車道の真ん中を闊歩しながらどんどん接近してくる。10メートル5メートル。もうちょっとで通り過ぎてくれる。
男の背中が見えた。オレの思い過ごしだったのか。そう思っていた矢先、一台のセダン車がその男の前で停まった。男は運転席に歩み寄りドライバーの若者に何かを話しかけていたが、
「ウルセェ、バーカッ!」
若者はそう言い残して車を走らせた。なんてことをしてくれたんだ。それを聞いた男は大発狂。大声を出しながら凄い勢いで車を追い掛け、持っていたセカンドバックを投げつけるも車は無視して去っていった。
前にも増して大声で暴れるハダカ男。今の一件ですっかり帰るのを忘れた模様。全身から怒りの炎がみえるようだ。
その場所が気にいったのか、ぐるぐる歩き回りながら攻撃的なパフォーマンスを繰り返した。距離にして5メートル。
後ろには彼女がいるしこの場所を動くことはできない。オレは自分の車が壊されないよう見張るしか手がなかった。
近くで観察するとなかなか良い身体をしている。たまごパックのように割れた腹筋。ゲルググのような盛り上がった三角筋。筋肉質の躯体はまるでムエタイ選手のようだ。
きっと鍛え抜いた身体を誰かに自慢したいのだろう。力があって強いことをアピールしたいのだろう。そんな感じに思えた。
つづく