第42回





●ハダカ男  (Part3)



 走りながら彼女がハイヒールであることを思い出したオレは、ここが限界とばかりにその場で立ち止まりハダカ男をくいとめることにした。

「まあまあ落ち着いて。わかった、わかった」

 オレはハダカ男をなだめるよう、左手で喉輪をしながら笑顔で制止をよびかけた。
左手に伝わる生暖かい体温。至近距離でみる血走った目は怒りにかられた王蟲(オーム)のようだ。
 突進をくいとめたのはいいがこれからどうしよう。どうやって沈静したらいいんだ。頭上に振り上げられた看板はスチール製、こんな物で殴られたらただではすまない。オレはいつでも防御ができるようハラハラしながら身構えていた。すると、

「何がわかっただッ! 何がわかっただッ! 何がわかっただッ! 空手か? 空手か? 空手か? あアあんッ!?」
 
 ハダカ男はオレの構えから何かの武道をやっていると判断したようだ。酔ってるわりに中々スルドイ。そして、何を思ったのか持っていた看板をいきなり後ろに放り投げ、オレにむかってファイティングポーズをとった。
 なんだ? もしかしてオレと戦うというのか。
 素手ゴロでタイマン張るというのか。
 ていうか、なんでオレが戦わないといけないんだ‥‥?。

 そうこうしてるうちに第一弾の攻撃がオレを襲った。下段まわし蹴り、いわゆるローキックだ。オレは条件反射でそれを自分のスネでブロック、骨と骨とがぶつかった鈍い音が下からきこえた。

 け、蹴られた……。

 その瞬間、オレの身体に内蔵された自己防衛システムが作動。戦闘モードのスイッチが入った。ハダカ男は2発、3発と重たい蹴りを打ちこんでくる。オレはそれをサバキながら考えていた。コイツはいくらなんでも調子に乗りすぎだ。酔ってるからといって何をしても許されると思っているのか。

 オレは次ぎの攻撃が来る瞬間、渾身の力をこめて相手の脇腹にミドルキックを打ちこんだ。突き刺さる右足。ハダカ男の身体がくの字に曲がった。ジャストミート。これで大人しくなるハズだ。そう思っていたが、

「ああんッ!?」

 ハダカ男は何ごともなかったかのように普通に立っていた。
 やっべ、全然効いてねえ……。

 それからはもう無我夢中。コブシを振り回しながら襲ってくるハダカ男に対して左右のパンチで応酬した。ボディーがダメなら脳味噌を揺らしてノックアウトするしかない。狙うはアゴの一点のみ。オレは相手のパンチを避けながらピンポイントで男のアゴを打ちぬいた。崩れるように倒れるハダカ男。が、すぐに立ち上がるハダカ男。

 なんなんだコイツはッ! 攻撃がまるで通じないッ!







つづく