●ハダカ男 (Part4)
酔っぱらいがこんなに強いなんて。全力でいかなければこっちが殺られる。こうなったら相手の動きが止まるまで何発でも弾を撃ちこむしかない。オレはネコ科の動物のように飛びかかってくるハダカ男にピンポイント爆撃を繰り返した。
打ちだした拳は全弾命中。その度に糸の切れた操り人形のようにハダカ男は倒れた。が、まるでスリップダウンだと言わんばかりにすぐに起き上がってくる。アディダスのスニーカーがアゴを捕らえることもあった。でも、それもヤツには効かなかった。オレは闘いながら焦っていた。どうやったらコイツを倒すことができるんだ。自分のウェイトでの打撃の限界も感じていた。
そのとき、オレの身体が思い掛けない行動をとった。なんとハダカ男の左手首を両手でキャッチ。そのままネジるように自分の方に引き寄せながら相手を投げた。気がつくとハダカ男はアスファルトにうつ伏せになり、オレはキャッチした腕を曲がらない方向にネジりながら押さえ込んでいた。
‥‥ッ!。裏固め?‥‥。
オレは警察官が犯人を取り押さえるようにハダカ男の上に乗っていた。無意識に出た技に自分でも驚く。まさか実戦で使うことがあるなんて‥‥。
10代の頃、拳法の道場にいた時のことを思い出した。そこでは殴る蹴るのほかに関節技も教えていた。でも正直いって関節技の練習はつまらなく疑問を抱きながら練習していた。こんなものがストリートファイトで使えるはずがない。そう思っていたからだ。繰り返し身体に叩き込んだ技は頭では忘れていても身体が覚えていたようだ。
さっきまであれだけ暴れていたハダカ男は声も出さず動かなくなった。ようやく痛みを感じたらしい。確かにこの状態なら力加減ひとつで肩関節を折ることもできる。 口元が軽く緩みちょっとした感動を味わっていると、ふと、オレの視界にバイクのタイヤが目についた。道路の真ん中で押さえ込んでいるため単車が通れないらしい。いつからそこに居たのだろう。まったく気がつかなかった。
「あの‥‥警察を呼んできましょうか?」
ライダーはオレと目が合うとそう言い、お願いしますとオレは答えた。もう安心だ。あとは警察が到着するまでこの状態を維持すればいい。ハダカ男も抵抗をあきらめたようだ。全身からふわっと力が抜けるのがわかった。
膠着状態は続きオレはだんだんと疲れてきた。こういうときは1分がえらく長く感じる。オレはバイクが走っていった方向を見ながら、まだかまだかとキョロキョロしていた。その時、
「うがああああああああああッ!!!!」
オレの一瞬の隙をつきハダカ男は身体を反転、技がとけてしまった。マズイッ。慌てたオレは仰向けになったハダカ男と揉み合い、立たせないよう力づくでマウントポジションをとった。ガッチリと腹の上に乗ったオレ。上から見下ろすかんじにハダカ男と見つめ合う。
「お前の顔覚えたぞ、お前の顔覚えたぞ、お前の顔覚えたぞ、お前の顔覚えたぞ‥‥」
うわッコエー。瞬きもせず念仏を唱えるように小声でそう言うハダカ男。確かにここからヒジを落とせば勝負はつく。いかにタフな奴でもアスファルトを枕にして打撃を食らえばどうにかなる。が、そんなことはするつもりはない。戦ったとはいえハダカ男には何の怨みもないし、そんなことをすれば過剰防衛でオレが犯罪者になる。
オレは振り上げたヒジをそっと下ろし相手の両手首を強く握ったまま警察の到着を待つことにした。大人しくなればそれでいい。しばらくすると右手から警察官数人がやってくるのがわかった。これでジ・エンドだ。そう思っていると左手から聞き慣れない女性の声が聞こえた。
「スイマセンねぇ‥‥。普段はおとなしい人なんです‥‥。ハァ‥‥こんなに酔っちゃって‥‥」
つづく