●ハダカ男 (Part5)
見るとそこにはハダカ男の彼女らしき女性が立っていた。そうか、あの時の電話は彼女への帰るコールだったのか。ちゃんと繋がっていたとは。心配した彼女が迎えにきたに違いない。
こうしてハダカ男は警察官4人掛かりで捕りおさえられた。オレは別の警察官ひとりに立ちながら事情徴収を受ける。安心してアドレナリンが薄れたからか、右手がジンジン痛むのを感じる。さっき無茶な体勢から拳を打った時にやったのだろう。ヒビが入ったかもしれない。右手を庇うように押えていると警察官は最後にこういった。
「それで、訴えますか?」うーむ。面倒は御免だ。それより早く帰りたい。オレはいいえと答え、一部始終を心配そうに見ていた自分の彼女のところへいった。普段ギャグばかりいっているオレ。闘う姿を見られたことが何だか恥ずかしい。「大丈夫?」と小さく聞いてくる彼女にオレは笑顔でうなずく。拳法をやってたことを彼女は知らない。こんな時って何を話せばいいんだろう。また、どんなことを言われるのか少し興味があった。すると、
「あなたのこと、これから“ダルシム”って呼ぶわ!」
「え! ダルシム‥‥ッ?。何でオレがダルシムなんだよ!。それって“ストリートファイター”のゲームに出てくるインド人だろ?」
「そうよー。あなた腕がすっごい伸びてたわよ。流石のあたしも、あなたが“ヨガファイヤー”の使い手とは知らなかったわよ!」
なんだそりゃ。第一声の感想がこれか。彼女はそのままシャドーボクシングをするように「ヨガファイヤー!、ヨガファイヤー!」といいながらダルシムの真似をしてオレを笑わした。
でも、確かに言われてみれば力のあるハダカ男に捕まらないため、接近戦のインファイトを避けて距離をとって闘っていたのかも。KOできなかったのは打撃の貫通力が足りなかった為か。まあなんでもいいや。相手も怪我しなかったならそれに越したことはない。これがオレの学んだ拳法の戦い方だ。
堂々と胸を張りながら彼女と帰っていくハダカ男を目で追う。もうオレと闘ったことなんて覚えてなさそう。振り向きもせずハダカのまま去っていった。警察官も引き上げようとしてる。オレも彼女を送って帰宅するか。ポケットにある車のキーを取った。と、その時。突然、暗闇から豪快な高笑いが聞こえた。「あッーはっはっはっは! なにッ? 喧嘩か?喧嘩か?」
そこには全身黒尽くめでガラの悪い男。なにやらオレに向かって話しかけてくる。一難去ってまた一難?。身体にまた緊張感が走る。が、恐る恐る顔を見ると、なんとそれは美大系の友人。元暴走族にしてアーティストの青田君だった。そういえば彼の家はこの近所。煙草を買いに来たらしい。変なところを見られてしまった。事の次第を簡単に説明していると、
「あッーはっはっは! まあいいやッ! 呑もッ! 家にワインあるからッ!」
ええ?‥この時間から。でも、こういうハプニングは嫌いじゃない。時間が経つごとに痛みが増す右手。シップ薬もくれるというので、お言葉に甘えることにした。彼とは同じ拳法の道場に通っていた同門でもある。こんな日に限って不思議な縁があるもんだ。こうして、彼女と3人で盛り上がり気がつくと外が明るくなっていた。
おわり