● 小金井公園
あれは井の頭公園でバラバラ殺人事件があった年だった。オレは彼女と2人で深夜の小金井公園を散歩していた。物騒な事件の後だからか公園内にひとけはない。シーンと静まりかえり真っ暗なフィールドには猫も歩いてなかった。
そんな中、公園の外を通る五日市街道に直管マフラーの爆音が鳴り響く。暴走族の集会だ。爆音は新宿方面からだんだんと近づいてくる様子。様々な集合管の重低音が公園の中で木霊する。6連ホーンのゴットファーザーのテーマ曲も聞こえた。これはけっこうな台数の集会にちがいない。50台、100台…いや、もしかしたらそれ以上。一瞬、80年代にタイムスリップしたような懐かしい感じがした。
轟音はなかなか鳴りやまない。なんとなく公園全体を囲まれているような感じ。見えない恐怖に襲われた。嫌な予感がする。これは車に戻った方が安全かも。オレは公園の入口から直線にのびる道を急ぎ足で引き返した。
すると、前方から急速に接近してくる4サイクルのエンジン音。ジェット戦闘機が低空で飛んでるようだ。まさか、この公園に来るつもりじゃ……。
そう思っていた矢先、数十台の単車のヘッドライトが地鳴りと共に公園の入口に雪崩れ込み、あたりが急激に明るくなった。ヤバいッ!。カップル狩りかッ?!
公園内の空気は一変し、一瞬にして凍りつくオレ。反射的にクルリと反転、速攻で来た道をUターンした。ゆらゆらと背後からオレを照らすヘッドライトの光。あきらかにこっち向かって迫ってくる。いったい何台いるんだ?。じゃりじゃりとタイヤが地面をこする音が真後ろから聞こえた。カラまれることは必至。ていうか殺されるかも。
「何か武器になるものを探せッ!」
オレは彼女にそういった。多勢に無勢。万が一の場合、素手では分がわるい。オレはライトで照らされた地面の上を必死で探した。が、都合よく武器になるような鉄パイプや金属バットが落ちているわけがない。もう時間がない……。そう思ったときだった。
「ねー、コレはッ?!」
自信ありげに彼女が何かを拾い上げ、オレに手渡した。
「スポークッ?!」
これは自転車のスポークだ。このスポークで族と……?。
必殺仕事人か、オレはッ?。
でも、もうやるしかなかった。オレは絶望しながらその場で立ち止まり、握り締めたスポークを下に向けながら、時代劇のようにゆっくりと振り向いてみた。少しでも危ないヤツだと思われれば幸い。戦いを回避できるかもしれない。ところが、
「ビーン、ビンビンビンビィィィー」
オレの目に飛び込んできたのは8台の原付スクーター。あまり悪そうに見えない少年グループだった。しかも、オレのことなどまったく無視で通りすぎ、逃げるように一目散に去っていった。
仁王立ちしながらあっけにとられるオレ。イメージしてた族の軍団など影も形もない。いったい何が起こったんだ?。確かに自動二輪の軍団がこの公園の中に入ってきたのに━━。
少しすると状況が理解できた。あの原付軍団は別のグループで、族の大部隊に追われて公園に逃げてきたのだ。よくみると公園の入口には大きなバイクが入れないよう数本の石柱が立っていたことがわかった。なるほど、こりゃ原付しか抜けられないわけだ。脅かしやがって。無駄な冷や汗をかいてしまった。
ということで、オレはようやく笑顔の戻った彼女を見つめ、首筋にスポークを刺すマネをしてから車に戻った。プヒュッ。