第50回





●歌舞伎町





夜の歌舞伎町にオレはいた。
ホテル街にあるバッティングセンターの脇に車を止め、友達が来るのを待っていた。音楽を聞きながら運転席でヒマしていると、ふと、サイドガラスに視線を感じる。
パトカーで巡回中の警察官だ。
瞬きもしない鷹のような目でオレを見ている。鋭い眼光にオレは圧倒され、つい目線を外してしまった。でも、これがいけなかった。パトカーはオレの前に止まり、警察官2人が降りてきた。
「こんばんは。ちょっと免許証を見せて貰えますか?」
ああ、職務質問だ。
ついでに車の中も調べさせて欲しいと言われる。若干躊躇したが、何もやましいことはないし、待ち合わせの時間までヒマだったのでオレはそれに同意した。
さすが新宿歌舞伎町。パトロールにも気合がはいってる。
車を降りると物腰のやわらかい警官がオレに接近。質問を投げかけながらの身体検査。服の上からペタペタ触られ、財布の中まで見せるよういわれる。
すると、鋭い眼光でガタイのいい警官は車内を物色。トランクの中も開けるよういわれた。
見られてヤバイ物は何もない。が、思ったよりも念入りに車を調べられると少し不安になる。
ホントに何もなかったかな?。オレは記憶の中で検索をかけ、法に触れるようなものがないか再確認。警察官と話しながらも上の空で、車内を調べる無口な警官を目で追った。
「この中、調べてもいいですか?」
無口な警官はCDが入っている巾着袋を手に取り、オレが同意するとそれを開け、50枚はあるCDケースを一枚一枚、念入りに調べていた。
その行為を見てようやくわかった。
これは、白い粉とか、葉っぱとかのドラックを探しているに違いない。オレのことをヤクの売人と思っているのか?。
そんなものあるわけないのに。
その後、シートの隙間、ボンネットの中、飲み掛けのコーヒー缶まで調べると、最初強気だった警官の顔に陰りが見えてきた。
ここまで執拗に調べられるとあまり気分のいいものではない。通行人からの犯罪者を見るような冷たい視線が痛く感じた。
そろそろ諦めて開放してくれるだろう。
そう思っていると、無口な警官はダッシュボードからある物を取り出しこういった。
「この中、調べてもいいですか?」
それを見たオレは一瞬で青ざめた。
すっかり忘れていた……ていうか、そこまで調べるのか?。しかも、それオレの物じゃないし。そういって拒否することにした。
待ち合わせの時間が近づいてきたので、だんだんソワソワし機嫌も悪くなる。が、それがまた怪しいと思われたらしく警察官は引き下がらない。
その中にブツがあるに違いないと自信ある目でオレを見ていた。なんという執念深さ。まるで、オレが犯罪者じゃないと都合が悪いようだ。
すっかり面倒くさくなったオレは、
「じゃあ見てもいいよ!」
そういって呆れながら中を調べることに同意した。
すると、無口な警官は勝ち誇った顔でピンクローターのリモコンを開け、中にある単3電池を眺めながらつぶやいた。
「……アルカリかぁ」
って、そういう問題じゃない!。仮にオレがヤクの売人だとしても、そんなところに隠すわけないし。
ということで、このときはまだ30代前半。一歩一歩、若者からオジサンへと階段を登っている最中だった。