● 携帯ヤクザ
ちょっと前だけど、地元の同級生と車に乗っていたときのこと。野郎2人でヤマダ電機まで買い物にいく途中だった。
その日は天気もよく、休みの日なので家族連れの車が多いのか、いつもより道が混んでいた。
革ばりのシートに深く座るオレ。たまに助手席に乗るのは新鮮で気分がいい。セルシオだけあって室内は快適。振動もあまり感じないし、外の景色だけが静かに動いてるようだ。
チラりと運転席をみると同級生は携帯のメールをピコピコ打ちながら運転している。
渋滞してるので動いたり停まったりと気だるい運転でヒマなのだろう。
最近の経済ヤクザは普通にパソコンや携帯を使いこなす。
一般のひとに混じってチャットしたりもするから驚きだ。
こんなスキンヘッドでグラデーションの眼鏡をかけた男がチャットの相手とは誰も思わないだろう。
経済ヤクザは可愛い顔文字をふんだんに使いながら、一心不乱に携帯メールを作成していた。と、
「コツン」
車体にかすかな振動を感じた。
あ! オカマ掘った!。
のろのろ運転で気が緩んだのか、ブレーキが間に合わず前の車に軽く当ててしまったようだ。
衝撃の程度から大したことはないと思うが、前に停まっているセフィーロからあわてて若い兄ちゃんが降りてきた。
バナナマンの日村に似た兄ちゃんは後頭部の髪をイジりながらこっちの車へと近寄ってくる。
「……あ〜当たっちゃったねぇ」
そういいながらも、まだ携帯で文字を打っている経済ヤクザ。ナゼか余裕がある。まあ金融業の他に自動車保険のスペシャリストでもあるから、こういうことには慣れているのだろう。
恐る恐るこっちの様子をうかがいながら何かを言いかけようとしているバナナマン。
その時だった。
「なにバックしてんだよ!」
フルスモークの窓を開けながら、思いもよらぬ言葉を投げかける経済ヤクザ。えっ? ちょっと……。大気が瞬間的に氷ついたような感じがした。
その場でフリーズするバナナマン。目をパチクリさせながら何が起こったのか分からない顔。身体をSの字に曲げたまま、現状を理解しようと必死に考えている様子だった。
数秒後、
「ぁええ〜〜っ!?」
という悲鳴にも似た高い声が響きわたった。
なんという先制攻撃。一瞬で被害者と加害者がひっくり返ってしまった。ていうかこんな攻撃アリなのか。
「こんなところでバックしてんじゃねーよ! こっちは急いでるんだよ! 見逃してやるからさっさと行け!」
信号が変わると続けざまにそんな言葉を連発する経済ヤクザ。相手に喋るスキを与えない。
バナナマンは口をもごもご反論しようとしてたが、理屈の通る相手じゃないと直ぐに理解したようだ。
すごすごと自分の車に引き上げ走りだした。可愛そうなバナナマン。相手が悪かったとしかいいようがない。きっつぃきっつい。
「あそこからスタートしないと。俺の場合、まずスタート地点が違うから」
経済ヤクザは悪ぶれることなくそういうと、また携帯をピコピコいじりながら車を走らせた。恐ろしい男だ。
そういえば前も、人を一方的に殴ったのに相手から治療費とってたっけ。とてもオレにはマネできないマネできない。