● ワイズ
寒いので冬服を出していると大昔に買ったブランド物のシャツが出てきた。バーゲンで買ったものだが物がいいのかまだ着れる。そういえば10代の後半はデザイナースブランドが大流行り。いろんな服を買ったものだ。
ふと、予備校のときにいたワダさんってひとのことを思い出した。ワダさんはいつも全身をワイズで固め、ボケキャラだけどなかなかのオシャレさん。少ない仕送りをやりくりしてまでワイズを着ていたので、いつも公園でノリ弁当を食べていた。
ある日、そんなワダさんと吉祥寺パルコの画材屋で会った。ワダさんはいつもオレと会うと
「彼女できたか?」
とかいって受験よりも女のことを気にしていた。めんどくさいので話を切り上げて帰ろうとすると、
ワイズの定員がどうも自分に惚れてるらしい。8時でパルコが閉まるからその子を誘っていっしょにお茶しないか。とオレを誘ってきた。
けっこう美人とかいうし、なんだかちょっと面白そう。どんな子なんだろうって気になったので興味本位で3階にあるワイズまで同行することにした。
かしこまった店内にいかにも常連っぽく入店するワダさん。すると、すぐに全身ワイズで固めた店員が笑顔で近寄ってきた。なるほど、これはなかなかの美人さん。でも、マジでこんな子がワダさんに気があるの。と、ちょっと疑問のオレ
洋服のクレジットが多くて何も買えないらしいが、通っぽく服を手にとったりして店員と会話するワダさん。
「うん、うん・・・そうだよね・・・うんうん・・・綺麗だよね」
まったく買う気がないだろうに相槌を打ちながらお茶に誘うタイミングをはかっていた。
美人店員はそんなワダさんの気持ちを知ってか知らぬか淡々と高そうなシャツを薦めている。閉店間際になるとお客はオレらだけになった。今だ!。誘うならこのタイミングしかない!。心の中でそう応援しているとワダさんが動いた。
「じゃあ、包んでもらおうかな」
え、お茶は?!。
いやそれよりも、いつもそんなスカしたセリフで服を買っていたのか。何となく笑ってはいけない雰囲気に踊りだす腹筋。
けっきょくのところワダさんは高いシャツだけ買って店を出た。美人店員の件はワダさんの妄想だったとすぐに気がついた。オレは買い物に付き合わされただけのようだ。
頭金の2000円を出したことにより、お茶どころか帰りの電車賃がなくなったワダさん。オレから借りて家に帰ったのは言うまでもない。