日光(その3)―雪降る夜更けに―

日光に着いたのは深夜も既に12時は回っていたと思う。

「やっと日光に着いたね!ファミちゃん!」

イケちゃんはファミちゃんと話すときは裏声になる。

「ウン!」


ファミちゃんも似たような裏声で答える。
駅前通りには鉄骨でトラスに組まれたゲートが跨いでいて、それに取り付けられた“歓迎”の看板にボク達は迎えられた。

「なにが『歓迎』だよ!人っ子一人居ねえじゃねーかよ。このバカチンが!」

板谷くんは、左手で耳に掛かってもいない髪の毛をちょっとかき上げる金八先生お馴染みの仕草をして言った。

「そりゃそーだよ。こんな雪降る夜更けに来るヤツなんて居ねえよ。フツー!」

間髪入れずにイケちゃんが答えた。ちなみに地声は結構低い。
雪はあいかわらず降っていた。やや小降りになったように感じられたのは高速道路を下りたからかもしれない。あたりは閑散としていて、道路はすっかり白く覆われていた。
駅前通りをトロトロと走っていると喫茶店らしき灯りがポツンと1つだけ見えたので、とりあえず、そこに入ることにした。

☆彡☆彡☆彡

「う〜っ、さみ〜デービスJr.〜!」


カウンターと向かい合わせで4人が座れるテーブル席が2,3あるだけのこぢんまりした店だった。他に客はいなかったと思う。年季の入った木の内装と素朴でちょっと寂しげな白熱球のあかりが印象的で、木製の窓越しに雪が降っている感じは、まるで『北の国から』なんかに出てきそうなシーンだった。

「いらっしゃい。」


たぶん、そう言ったのだと思う。マスターはタバコの火を消しながら、面倒くさそうにカウンターの中から出てきた。

「いや〜っ!よく降りますねえ。」

窓際のテーブル席に腰掛けながら、板谷くんは誰に話すともなく喋りだした。

「やっぱアレだな。日光は違うね!」

いったい何が違うと言っていたのだろう?
その後もいろいろと喋っていたような気がするが覚えていない。
マスターはテーブルの傍らで苦笑いして立っているだけだった。

☆彡☆彡☆彡

ボクは何を頼んだのか忘れたが、板谷くんとイケちゃんが、ボクの向かいに並んで座り、一心不乱にカレーを食べていた姿は覚えている。さすがにこの時ばかりはイケちゃんのブロックサインも繰り出す暇はなかった。

「アーッ!食った!食った!お勘定!」

板谷くんはグビグビっとコップの水を一気に飲み干し、テーブルの上にダンッ!と置き、そう言って席を立った。店にはあまり長居をする方ではない。食うもの食ったらウダウダしないで、サッサと立ち去るのが常であった。


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つづく