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日光(その5)―星降る街角といろは坂― | |||||
「ウォンチュッ!」 板谷くんがそう叫ぶと車はいろは坂へと発進。月明かりの中、いろは坂はぼんやりと白く浮かび上がっていた。 早速、板谷くんが景気づけに歌い出した。 「♪星の降る夜は〜あなたと二人で〜お、お、お、お・・・」 「オ・・・オ〜イ!滑ってるよ!滑ってる!滑ってる!滑ってるって!」 イケちゃんが叫びながら板谷くんに被さっていた。 予想していたとはいえ、あまりにも簡単に車は滑った。 「分かってるよ!分かってる!分かってる!分かってるって!」 ハンドルを二人で握ってもみ合っているところで車は止まった。 「ムミャミャミャミャミャミャミャミャミャミャ・・・!」 イケちゃんがまた始まった。 「オ〜イ!まだ『い』だよ『い』。ど〜すんだよ!このバカチンが!!」 「ファミちゃん怖かったね。」 「ウン!」 「ほら〜。ファミちゃんも怖いって言ってるぞ!板谷ーッ!」 いろは坂とは「いろはにほへと・・・」の48文字に準えてカーブを当て嵌めていることからそう呼ばれているのであるが、カーブのコーナーには大抵カーブミラーが立ててあり、その脇には『い』だの『ろ』だのといったカーブの順番を示す標識も取り付けられていた。この先、47ヶ所の、しかもその大半がヘアピンカーブで、おまけに急勾配で、このツルツル状態のいろは坂を考えると、ボクはちょっと気が滅入ってきた。
「大丈夫だよ!これくらい!ウォンチュッ!」 そう言うと板谷くんはまた続きを歌い始めた。 「♪・・・あなたと二人で〜。お、お、お、お、踊ろうよ〜『チュチュル!チュチュル!チュルッチュ!』」 板谷くんは、合いの手が入るところがお気に入りだ。 「♪流れるボサノバ〜。触れ合う指先〜。あ〜〜〜っ・・・!」 「アアアア〜ッ!また滑ってるよ!滑ってる!滑ってる!滑ってるって!」 「分かってるよ!分かってる!分かってる!分かってるって!」 また運転席でもみ合っていると車は半回転して止まった。 「あっぶねーなー!ファミちゃん怖かったね。」 「ウン!」 「大丈夫だよ!・・・ウォンチュッ!」 「ムミャミャミャミャミャミャミャミャミャミャ・・・!」 「『ウォンチュッ!』じゃないよ!今から時速10km以上出しちゃあダメだからな!このバカチンが!!」 「ねえ。ファミちゃん。」 「ウン!」 「分かってるよ!ウォンチュッ!」 「♪・・・触れ合う指先〜。あ〜〜〜っ!恋のよー・・・『夜!夜!夜!夜!長い夜!』」 「♪いたずら夜風が〜頬を濡らしても〜。ふ〜たりは〜・・・わ!・・・」 「わ!わ!わ!わ!10キロ超えてるよ!超えてる!超えてる!超えてるって!」 イケちゃんはスピードメーターを指差しながら叫んだ。 「分かってるよ!分かってる!分かってる!分かってるって!」 「大丈夫だよ!うるさいよ!ウォンチュッ!」 「♪何も言わないで〜微笑を交わす〜。」 「♪あ〜〜の、まちか〜・・・『カド!カド!カド!カド!曲がりカド!』」 「とん平ッ!」 「なんで『とん平ッ!』なんだよ!」 「曲がり角なんだから『とん平』だろ!ハイ!そこの角、左とん平ね。」 中学時代からのイケちゃんお得意のフレーズである。 車は“ろ”のカーブをゆっくりと左に曲がっていった。
と、その時 ブロロロロロロロ・・・ なにやら後ろの方から重低音というか振動が聞こえてきた。 パッと後ろを見ると、勢い良くやってくる2つのライトが見えた。そしてボク達の車をアウトか一瞬に抜き去ったと思ったら・・・、 ズキャキャキャキャキャキャー! と目の前をドリフトしながらヘッドライトが通り過ぎていった。 たぶん、レビンとかトレノとかいったFRの走り屋だ。 それにしても、ドリフト走行ってものを初めて、しかもこんな至近距離で見てしまった。 「クォノヤロ〜!いい気になりやがって!」 と言う声が聞こえた。 と思ったら車はブォーン!と急加速! と思ったらキュルルルルルー!と急スピン! と思ったらガクーン!と山側の雪の壁に刺さって車は停まっていた。 「『クォノヤロ〜・・・!』じゃないよ!あっぶねえなぁ!!」 イケちゃんがブロックサインを繰り出しながらジタバタしていた。もはや金八の半まねなんかしてる場合ではなかった。 「わ、分かってるよ!・・・ウォンチュッ!」 ボク達は小さくなっていくテールランプを見ているしかなかった。
「あっもう1台来た!」 ブロロロロロロロ・・・ ハンドルをギリギリと握り締めて、板谷くんが必死に怒りを堪えているのが伝わってきた。 「うわああああああ〜〜のま〜ち〜カド!カド!カド!カド!曲がりカド!」 「とん平ッ!」 板谷くんは頭をハンドルにぶつけるように振りながら叫んでいた。 「あっ!また来た!」 ブロロロロロロロ・・・ 「うわあああ〜・・・カド!カド!カド!カド!・・・」 ズキャキャキャキャキャキャー! 「まただ!」 ブロロロロロロロ・・・ 「ぬおおお〜・・・カド!カド!カド!カド!・・・・」 ズキャキャキャキャキャキャー! 「まだ来る!」 ブロロロロロロロ・・・ 「・・・カド!カド!カド!カド!・・・カド!カド!カド!カド!・・・・」 ズキャキャキャキャキャキャー!ズキャキャキャキャキャキャー! 「とん平ッ!とん平ッ!とん平ッ!とん平ッ!」 「とん平ッ!とん平ッ!とん平ッ!とん平ッ!」 イケちゃんも一緒になって頭を振って叫んでいた。 ・・・・・・・・・
「なんか、明るくなって来たみたいだけど・・・。」
おしまい |
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