板谷家でゴハン(その1)

 その日は、朝からスカッと晴れわたっていたせいなのか、とても気持ちが良かったので、自転車でプラプラすることにした。国分寺とか府中の方まで行ったりなんかして、国立に帰ってきたらもう昼時だった。久しぶりに朝から運動したせいなのか、とてもお腹が空いたので、まっ昼間からだけどスタ丼に行くことにした。スタ丼とはニンニクたっぷりの焼肉のその上にさらに生タマゴを落としたスタミナ丼のことで、上京して直ぐ、板谷くんに教えてもらった店の名物である。店の名前は思い出せないが、そこに行くお客のほとんどは、いつもこのスタ丼を注文するので、その店ごとスタ丼と呼んでいた。


 お腹がいっぱいになったところで、その日の夕方に予定されている弓道部の部会までにはまだ時間があるので、プラプラついでに板谷くんの家にでも遊びに行ってみることにした。


いつものように離れを訪ねたが板谷くんは留守だったので、母屋に寄ってみた。

「ごめんくださーい。」

「ウガァオーイ!」

家の中からそういう声がした。
たぶん「ハーイ」と答えたのだと思うけど、ボクにはそう聞こえた。
ガチャッ!
暫くして、おやじさん(ケンちゃん)が勝手口から出てきた。
ちなみに、この家は勝手口が主な出入口になっていた。

「なんだ?!コーイチの野郎は居ねえのか?!
あの野郎どこ行きやがった?!ちくしょーめ!」

「『ちくしょーめ』って・・・?」

「こうなったら・・・」

「『こうなったら』って・・・?」

「こうなったらアレだ。メシでも食ってけ!」

「エッ!いや別に用事って程の事はないですし、
ちょっと寄ってみただけですから・・・。」

「イヤーッ!そんな事はない!」

「『そんな事はない!』って・・・?」

「こうなったら、メシでも食ってくしかねーだろ!
かあさん!メシだ!メシだ!」

「ハイ、ハイ、なんですか?さっき食べたばかりでしょ!」

「うるせえ!俺が食うんじゃねえ!」

「ハイ、ハイ、わかってますよ。
“仕事”が食べるんでしょ。ハイ、ハイ・・・って、
あら!キョージュじゃない!
それならそうと言ってくださいよ。
まあ、お元気?」

「えぇ・・・まぁ・・・。」

「あら、そう〜、いつもコーイチから聞いてますよ。
霞を食べて生きてるとか、ゼンマイ仕掛けで動いてるとか。
ちょっと待っててね。」

「そ、そんな・・・いいですよ。さっきゴハン食べたばかりですから。」

「イヤーッ!そんなはずはねえ!
コチトラなんでもお見通しだ!遠慮すんな!」

と、いう訳で、既にお腹いっぱいなんだけど、お邪魔してゴハンを頂く事になってしまいました。


「ご馳走様でした。」

「オイ!かあさん!おかわりだ!」

「もう食べられませんから、いいですよ。」

「イヤーッ!コチトラそんな事じゃあ〜騙されない!
遠慮すんな!まだ食べたそうな顔してる!」

「そ、それじゃあ・・・。もうちょっとだけ・・・。」

「ホレ見たことか!言わんこっちゃーない!
百聞は一見にしかず!新聞は一軒に一部だ!」



つづく