『ワルボロ』と「受験」


 すっかりあけました。おめでとうございます。1月も中旬を過ぎると、いよいよ受験シーズンという感じです。受験生のみなさんはいかがお過ごしでしょうか?さて、2005年と言えばなんと言っても『ワルボロ』出版でしたが、この『ワルボロ』と「受験」でふと思い出した事があります。


 あれは、翌日にムサ美の入試を控えた夜の事でした。
 明日の試験に備えて早く寝ればいいものを、どういう訳かボクは板谷家の離れにいました。確かもう夜中の12時を回っていたと思います。ボクは板谷くんに熱っぽく励まされていたのでした。
「明日の試験、ゼッテー受かれよな!」
「んん〜。ありがと。」
「気合入れてけよな!」
「んん〜。わかったよ。」
「なめてかかんじゃねぇーゾ!」
「んん〜。そうするよ。」
 板谷くんの方はというと、1年前、既にある専門学校に納まっていたのでした。


 話はそれから遡る事1年前。
 ボクも板谷くんも、その年の入試はムサ美も多摩美も全滅でした。そこで板谷くんは「悪いようにはしないから」などとボクを誘い、例の専門学校を一緒に受験したのです。
その試験の日―――。
「どーだよぉ?!できたかよぉ?!」
 試験は面接だった。
「いや・・・なんか緊張しちゃって。」
「そうかぁ・・・。」
「質問に・・・あんまり・・・ちゃんと答えられなくって・・・。」
「質問・・・?答える・・・? なんだよぉ! 面接なんてもんは、相手に喋らせたらアウトなんだよぉ!」
 とても残念そうに板谷くんは言った。
「そ、そうなの?」
「あたりめぇだ!オレなんか初っ端から畳み掛けてやったよぉ!」
「た、畳み掛ける?」
「そうだよぉ! まあ確かに始めこそ『名前は?』な〜んて先制を許したものの、そっから後はガシガシ間髪入れずに畳み掛けてやったよ!」
「ガ、ガシガシ?」
「そうだよぉ! 最後にヤツらは『キミは面白いね。』なんて捨てセリフを吐くのが精一杯だったな!」
「ヤ、ヤツら?」
「なんならラップ攻撃でも咬ましてやろうかとも思ったけどよぉ!」
「ラ、ラップ攻撃?」
「素人さんにそいじゃあ可愛そうだと思って、そいつは止めといたけどな!」
「し、素人さん?」
「なんだよぉ! 特訓しときゃあよかったなぁ!
まあ、でも入試なんて所詮は運だからな、大丈夫だよ!」
「そ、そうだといいけど・・・。」
「ほらっ、良く『当るもヤンボー、当らぬもマーボー』って言うじゃねえか!」
「それ・・・ひょっとして・・・占いか何かじゃあ・・・?」
「ん・・・? 似たよ〜なもんだよ結局は!」
 入試が占いとか天気予報とかと似たようなもんだとは知らなかった。
それで結局、板谷くんは受かったけど、ボクはダメだったのでした。


 それから1年後、明日がムサ美の試験なのです。
「だから、ゼッテーッがんばれよな!」
「んん〜。がんばるよ。」
 板谷くんは話しながらどんどん熱くなっていった。
「だいたい、落ちちゃったりなんかしたら、自叙伝書く時どーすんだよ!」
「じ、自叙伝?」
「そうだよぉ!三浪したけどダメでしたじゃあ、
お話終わっちまうよ。『ハイ!終わり!』だよ。
お話になんねぇ〜よ。『ジ・エンド!』だよ。
物語になんねぇ〜よ。
自叙伝書けねぇ〜よ。
だから、ガンバレよな!」
「じ、自叙伝?」
 そう励まされたのを覚えている。
 あまりにも当然のようにそう言うので、ボクはちょっと面食らった。だいたい、未だ嘗て自叙伝なんて書こうなどとは思った事はない。やっぱり普通の人はそうだと思う。
 そういえば、板谷くんは昔から日記を書いていて、以前それを聞かされた時もあのワイルドな風貌とのギャップにちょっとびっくりしたけど、どうやらそれは、もしかすると自叙伝の為らしいって思うと2度びっくりだった。
 考えてみるに、『板谷バカ三代』などでも、いろいろなエピソードが何年の何月何日の事なのかが細かく記されているが、それもその日記のお陰である。
「別に毎日書こうって訳じゃなくて、何か、事件とかイベントとかあった時だけちょっと書いてるんだけどな。」
「そりゃそーだよ。毎日じゃあ大変だもんね。」
「でも結局は、ほとんど毎日になっちまうんだけどよぉ!」
 確かそう言っていた。
 それにしても、十代の頃から既に自叙伝を書き残すつもりだったとは恐れ入る。構想30年を経た今、それが現実の事になろうとしていて、しかも小説として世の中に出回っているのだ。
 『ワルボロ』の後は『メタボロ』『ズタボロ』・・・と続き四部作となる予定らしい。少なくとも計2000ページは超える大作となるはずである。まだ始まったばかりのこのシリーズは執筆に何年かかるだろう?果たして四部で終わるのだろうか?ひょっとするとひょっとしてマンガ化されたり、映画化されちゃったりして・・・?他にも思いもよらぬ展開が待っているかもしれない。もちろん小説そのものの今後も含めて、いろいろな成り行きが楽しみでならない。