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巨漢の受難
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ひと頃自粛していたテレビ東京の 「大食い選手権」 が復活して1年くらい経つのだろうか。
思い返せばブーム時、正月は大食い番組だらけで 「それに比べりゃオレなんか」 と“食っちゃあ寝”の罪悪感を麻痺させてくれたものだ(大食い関連の番組が2つ放送された日の深夜に
「羊たちの沈黙」 が放送されていて、あのラストシーンで 「食とは何か」 について改めて考えさせられたことを覚えている)。 先日は 「新・女王決定戦」
を放送していた。 レポーターが中村有志でなければいけないのは常識だがナレーションの“ささきいさお”はどうかな。
何はともあれ赤阪さんの姿を定期的に見られるだけでも私にとってこの番組は有意義だ。 大食い中に 「目が痛い」 と訴えて (そう言われてもどうすりゃいいんだか) と周りを困らせたり、メガネをどんぶりに落としたり、果ては 「縁談がある」 「ダメになりました」 と打ち明けるなど数々の伝説を残してきた赤阪尊子さん。 今は第一線から退いたようで、この日もゲスト扱い。 本戦は、赤阪さんを崇拝するあまりどんどん彼女に似て来た岩田ミユキ、そして現在女性ナンバーワンのギャル曽根に加え、新たな可能性を予感させる新顔の出現もあってなかなか楽しかった。 今後もテレビ東京だけを、優勝者が感激して泣こうが 「ばかばかしいなあ」 と思って観ていきたい。 もし再び人気が出たとしても他局は参入などしないように。 かつて大食い選手達を 「アスリート扱い」 していた番組もあったが、私たちがアスリートに尊敬の念を抱くのは 「足が速い」 とか 「力が強い」 ことに 「人間が身体ひとつで生きていく力」 を重ね合わせるからであって、「尋常でない量を食べる」 というのは生きていく上ではむしろ 「効率が悪い」 のだから話は違うのだ。 だって明日には“うんこ”だ。 大食い番組が復活したおかげで、ガリガリにやせた女の子が沖縄そばを22杯も平らげてしまう現実を私たちが思い出した今、思わぬ弊害を被っている人たちがいるような気がする。 いわゆる 「デブタレント」 達だ。 と一括りにしてみたものの 「デブタレント」 というジャンルってあるのだろうか。 石塚英彦に任せっきりで商店街を食べ歩きさせておけばそれなりの番組はできあがるが、それは石塚の必殺の笑顔(笑ってないけど)も含めた力量によるもので、ただ太ってりゃいいというものでもないのだ。 この石塚や伊集院光が 「俺たちデブタレントは」 と組合のリーダー的な発言をしているのはあくまでも 「手に職があり安定した立ち位置にいるタレントが同じ体型の仲間を思いやっている」 だけのように思える。 「舌が太ってるんでロレツがまわらなくて」 的な 「デブネタ」 を誰もがひとつやふたつ持っているとしても、伊集院のようにそのトーク技術を頼りに番組へ呼ばれてこそ披露できるわけで、それがなければ番組中では相変わらず 「汗をいっぱいかく」 「服のサイズがない」 「動きが遅い(逆に「意外と軽快」というのもある)」 そして 「やたら食う」 という役割を要求され、その少ない出番を持ち回る。 しかしその 「やたら食うという役割」 が危機なのである。 「汗っかき」 「鈍い」 「我慢ができない」 など、デブタレントに付きまとうイメージにはマイナス要素が多い。 しかし 「気持ちいいほどいっぱい食う」 イメージは数少ないプラス要素だったはずだ。 でも私たちはもっともっと食べる人間が存在することを知ってしまった。 しかもなぜか大食いの猛者たちにはほとんど太っている人がいない。 むしろやせている。 アメリカでの「ホットドッグ早食い大会」 で5連覇を達成している小林尊などは、今でこそマッチョだが当初はアイドル並みのルックスであった。 そんな 「かわいい小林くん」 が餃子400個を胃の腑に収める光景を経験済みの私たちは、内山信二が 「ボク、コンビニ弁当4つも食べちゃって」 と舌を出したところで 「そんなもんか」 と思ってしまう。 ヘタすると 「口ほどにもない」 となってしまいかねない。 今や大食を語るのに巨漢はハードルを上げてしまうだけなのだ。 で、最近の彼らを観ていると、どうやら食事の量そのものではなく、「高カロリー志向」 にスポットが当てられる傾向にある。 さんざん食べた後でも肉が出て来て初めて目を輝かし、とんこつスープを見れば 「あの中に飛び込みたい」 とつぶやく。 自分の汗を 「肉汁」 と呼ぶ。 脂っこいものを求め続けた挙げ句 「ひとりで靴下が履けなくなりました」 「腹でちんちんが見えません」 と 「高カロリー食の果ての不便」 を嘆いてみせるのである。 その点を突きつめていくと 「健康・生命の危機」 までもネタにしなければならない。 「(安田大サーカスの)HIROちゃんは医者に言われてジュースの一気飲みを封印してるんですわ」 と公言までする。 健康番組には 「悪いサンプル」 だって必要だし。 万が一、番組の企画でダイエットさせられたとしてもその次は迷わずリバウンドに邁進するだろう。 忙しいよある意味。 彼ら曰く 「デブタレ界の頂点」 は高木ブーだという。 そのキャリアに敬意を表しているのもあるだろうが、実際高木ブーはほとんど喋らず、すぐ寝てしまうのに、それを楽しんでもらえる域にいるのだから羨望の的になるのもうなずける。 しかも“下々”のデブタレ達が躍起になってアピールしている 「食」 に関するイメージが高木ブーにはあまりない。 だって喋らないから。 しかしそれでこそ 「いかりや長介に弁当のエビを取られて猛烈にキレたことがある」 というエピソードがまばゆいほどに輝くのだ。 「ひと目で食いしん坊とわかるルックス」 が 「記号」 として重宝されるのは確かだ。 それを際立たせるには 「過食」 より 「寡黙が金」 なのかも知れない。 |