「第二回」
「今日は都内に遊びに行こうよ、泊まりでさ」
 付き合って初めての夏の日にRがそんな事を言ってきた。
 恋人同士のお泊りといったら、することはただ一つ。子供を作らない子作りしかない。
 私は一世一代のイベントの為、化粧も服も念入りにその宿泊場所へと向かったのだが……そこは秋葉原だった。
 周りをみればそこは三枚1000円の、肌着にしか使えなさそうな薄く白いTシャツを着て、乳首を透けさせている太った男や、100円ショップで売っているハギレのようなバンダナを頭に巻いた男ばかり。
 特にその当時の秋葉原は規制も今ほど厳しくはなかった為か、路上ではアダルトビデオが売りさばかれて、駅の裏ではオタク達にカツアゲを繰り返す高校生達という無法地帯になっていたのだ。
 そんな秋葉原を見て、呆然とする私にRは興奮気味に言った。
「三日後の朝、ここで有名エロゲーが発売されるんだ。そこで配られる先着限定100枚のテレカが絶対欲しいんだよ。しかも先着3名にはサイン色紙がつくんだ。だから一緒に並ぼう」
 本当はすごく嫌だった。何が悲しくてオタク達が流した汗がしみこんだ灼熱のアスファルトの上で過ごさなければいけないのだろう。
 だけど当時Rにゾッコンで、ヘタな事をして別れたくないと思っていた私には拒否する事ができず、おとなしくRとエロゲを購入する為にアキバのゲーム屋の前で三日間の野宿をする事になった。
 ゲーム屋の前に行くと三日前だというのに、すでに一人の男の人が並んでいて、私達もその人の横に並んでなんとなしにその人と話しをして三日間を過ごす事になったのだが、一緒に並んだその人は30代の人でなぜか夏なのにコートを着て、腰に二丁拳銃をぶら下げている人だった。だけど、とても話しやすい人で仲良く徹夜をする事ができた。
 そしていよいよ発売日の前夜、徹夜組が3、40人にも膨れ上がってきていたときの事だった。
 実は三日前から二丁拳銃さんの前に大きなダンボールが落ちていたのだが、そこにが戻ってくる気配がなく、気になって聞いてみた。
「そういえばあそこに誰かいるんですか?」
「あぁ、あれね。いつもああやってダンボールだけ置いて場所取りをする奴がいるんだよ」
 どうやら、こういう深夜の並びの中ではダンボールだけを置いて、日に数回ほど様子を見に来るオタクグループがいるらしい。しかもそれはかなり悪質で、数日前に置いて発売直前になって戻ってくるという、ちゃんと徹夜で並んでいる人達から見たらとても迷惑なものだった。
 こうして三日も風呂にも入らず、蚊に食われながらじっと店の前で待っている二丁拳銃さんや私達がいるのに、ダンボールを置いていった奴らは冷房の聞いたマンガ喫茶でドリンクバーで色々なジュースを混ぜて飲んでみたりしながら、マンガを読んでいるのだ。
 私とRはその話を聞いて、だんだんハラが立ってきていたので、そのダンボールを拾い上げ、自らの尻に敷く事にした。
 悪いのは、他人に不快感を感じさせるオタクグループなのだ。罪悪感なんてものはどこにもなかった。
 そしてゲーム屋が開店する直前になって、ダンボールを置いた4、5人のオタクグループがやってきた。
「あっ!! ないっ!!」
 そう言って私達を恨めしそうに見てきたが、私達が何も言わずに睨み返していると、オタクグループはすごすごと後ろの列に並び、二丁拳銃さんとR、そして三番目の人が見事サイン色紙をもらう事ができた。
 嬉しそうに色紙をもらう二丁拳銃さんとRを見つめて、私はとても気持ちよかった。努力によって欲しいものを手に入れる姿というのは、どんな人間でも見ていて美しいのだ。
 そんな光景を見て、私はなんとなくエロゲーというものが気になってきていた。
 オタク達が並んでまで欲しいというエロゲー。それほどまでに面白いのだろうか? 
 私は不審がりながらもRからエロゲを借りてやってみる事にした。
 そして……
 数時間かけてクリアした後、私はパソコンのディスプレイに映る「END」という文字を見て泣いていた。
 なんというか、完全にエロゲーをナメていたのだ。ただのエロ本の延長線だろと思ってプレイしていたのだが、今でいう「世界の中心で愛をさけぶ」とかそういう系の物語がしっかりと描かれていて、私は一気にエロゲーの虜になっていった。
「18禁のゲームってね、エロイから18禁ってだけではないんだ。18歳以上じゃないと理解できないような重い話や、感動する話がいっぱい詰ってるんだよ」
 そんなRの言葉に私はうんうんと頷き、その後は新しいエロゲーが発売される時には、学校を休んで並びにいき、デートはもっぱら秋葉原になっていった。
 時には互いの愛を計るために、一緒に売りもしない同人誌を書いたり、誕生日にはオリジナルの詩を贈りあったり。とにかくオタクとして輝いていた気がする。
 だけど、そんな生活が約3年間続いて卒業を控えたある日、Rが家の都合で定時制の高校をすぐに退学しなければならない事になった。
 Rは泣きながら言った。
「俺……ちゃんと高校卒業してエロゲーメーカーに入りたかったのに……」
 私はその言葉に強く心を打たれ次の瞬間には「それなら私がRの代わりにエロゲーム業界に入ってあげる!、そしてRがやりたいような素晴らしいエロゲーを作る」と言ってたのだった。
 その数日後、私はあるゲームの専門学校に100万円以上の入学金を支払っていた。
 今となってはそれは若さ故の過ちというものなのだろう。でもその時は本当に心に誓っていた。
 誰よりも素晴らしいエロゲを作って、Rを喜ばせてあげたい。
 傍から見たら、ただのバカな女である。
 でもその時は本気だったのだ。
 その後私は、卒業文集の将来の夢に「究極のエロゲーを作り、日本中の男女を濡らして悦ばせる」という、書き残して高校を卒業した。
 だけど専門学校に入学してすぐに、ある大きな事件が起こったのだった。




すいません、まだまだつづきます。