「第四回」
 私が、とあるエロゲーのディレクターをしていた時に18歳の新人の男の子の面倒を見ていたのだが、彼はナイフを身に着けていた。
「そんなん持っててどうするのさ?」
「これはファッションの一部ですよ。僕はちゃんと刃物の取り扱いの資格も持ってるんです」
「へぇ〜すごいね。でも私から言わせればそんなんダサいよ」
 私はくだらなそうに答えた。
 彼には悪いが、その時18歳にナイフはダサいと感じた。
 完全に対象物を傷つけられるものを持って強がっているなんて、ドラクエで言ったらレベルが1のクセに天空の剣を持って、スライムを殺してるような感じがして見苦しく感じる。
 その時はそれだけで終わったのだが、数日後、買い物から帰ってきた彼が興奮気味に私に言った。
「いまさっき、変な中国人達に囲まれて……すごく怖かったんです」
 彼の話はこうだった。
 マクドナルドで買い物を済まし、店の前に出たとき、3人の中国人に中国語で話しかけられたというのだ。
 地方から出てきた彼にとって、それは始めての体験だったらしく、どうしようか困った。
 だけどもその中国人の人達はひっきりなしに何かを彼に伝えようとしていて、一向に引く気がない。そして彼は悩んだ挙句、自分は中国語が喋れない事を伝えようと、英語でこう言ったらしい
「ノーチャイナ」と。
 ノーチャイナ。
 もし私が中国に旅行に行って、場所を聞こうと話しかけた途端に「ノージャパン」と言われたら、恐らくその中国人に殴りかからないにせよ、怒りは確実に沸くだろう。
 案の定、その中国人達は怒った。中国語で彼に怒鳴ってきたらしい。
 そこで彼が何をしたのかというと、ポケットに入っていたナイフを手に握り締め、警戒しながら逃げてきたというのだ。
 ポケットの中からナイフを出さなかったのは偉いが、なんでナイフを握ったのだろうか。
 私はそれを問い詰めた。
「なんでそれだけでナイフを握る必要があるんだよ。それにその中国人は道を尋ねただけかもしれないでしょうに」
「でも怖かったんです!」
「だけどそれで本当にナイフを抜いたら、たとえその中国人達が悪かったとしても過剰防衛でしょっぴかれるんだよ?」
 その日は簡単な注意で終わったのだが、それから数日後、秋葉原のとあるゲームショップで事件が起きた。
 ナイフを使った傷害事件だ。
 客同士の口論から発展した傷害事件なのだが、どうやら噂では「自分の好きなエロゲーを貶されたとか、キモイとか言われてカッとなって切りつけた」らしい。
 一時期秋葉原内でオタク狩りが話題になり、自衛の為にナイフを持つ人間も増えたようだが、ついにやってしまった、と思った。
 それと同時に、まさか犯人は彼ではないだろうかと心配したのだが、違っていた。
「だけどあの日警察に呼び止められてナイフを持ってるの見つかっちゃいました」
「んで怒られたの?」
「丁度刃物の資格の証明書を持ってたので、見せたんですけど。しばらく持ち歩くのはやめなさい。って言われました」
「そうだね。君は持たないほうがいいよ」
 全ての人がナイフを持つのがカッコ悪いとは思わない。
 ただ、ヘタしたら自分の未来もそのナイフで切り落としかねないのだ。 
 私は現在秋葉原で働いている。
 自分の仕事場の周りが活気付いてくれる事は嬉しいが、それ以上に犯罪などが増えるのはとても悲しい。
 最後にちょっと話が脱線するのだが、秋葉原には「武装商店」という武器屋がある。
 摸擬刀などを売っている店で、コスプレをする人達もよく買い物に来るのだが、そこで買い物をしてポイントを溜めると某有名ロールプレイングゲームで出てくる「ひのきのぼう」を手に入れることができる。
 ひのきのぼうは誰でも装備できる初心者用の武器。売れば3ゴールドくらいにはなるはずだが、実際には檜ではなく杉を使っているようだ。
 こういう遊び心満載のお店があるのが秋葉原の魅力のうちの一つだと私は思っている。
 趣味は己の中で楽しむもの。己が趣味で持っているもので他人を傷つけてはいけない。それをちゃんと守るのが正しいオタクの姿勢なのだと思う。
 そしてそれを守れない者もいる。悲しい事にそれが現在の秋葉原なのだ。