【第十四回 第二部4 〜転校〜】

 柔道は散々だったが、学校生活は楽しかった。団体行動が苦手で、ちょっと問題児っぽいところもあったし、柔道を習っていたくせにケンカは弱く、泣き虫でいつもからかわれていが、クラスのみんなとは仲が良かった。成績は相変わらずトップクラスで、密かに誇らしく思っていた。

 そんな、楽しかった小学校を去る事になったのは、五年の一学期が終わる頃だった。父の兄弟子が亡くなり、その方が住職を務めていた寺を父が継ぐ事になったのだ。
 新しく住む事になったのは、それまで住んでいた場所から30キロほど離れた、郊外にある寺だった。今なら車で一時間足らずの距離だが、10歳の僕には遥かに遠く感じられた。

 体験して初めて分かったが、転校というのは想像以上に辛いものだった。入学以来築き上げてきた友達の輪から一人だけ引き剥がされ、全く違う輪の中に放り込まれるのだ。
 それでも、同じクラスに近所の子がいたので、その子を通じてクラスのみんなとも段々と仲良くなっていったのだが、ある日の放課後、突然クラスのガキ大将に呼び出された。

 理由は覚えていないが、ガキ大将の岩田と仲間たち数人に囲まれた。そんな事をされたのは生まれて初めてだったのですっかりびびってしまい、ちょっと小突かれただけで泣き出してしまった。
 僕がヘタレであることがばれてしまい、翌日からはいじめられっ子生活のスタートである。岩田や仲間たちからは、毎日のように殴られたり蹴られたり、マンガの本やメンコを盗られたりと、散々な目に遭った。

 担任の先生は僕がいじめられている所を見ても、「ケンカなら外に出て、正々堂々とやりなさい」などと訳のわからない事を言うだけだった。
 両親も慣れない環境で苦労している様子だったので、心配をかける訳にもいかず黙っていたが、とにかく学校に行くのが嫌だった。岩田たちの顔を見るだけで憂鬱になり、いなくなればいいのに、と毎日願っていた。

 実にあっさりと、その願いは叶った。転校生の僕は知らなかったのだが、新年度から新しい小学校が創立され、生徒の半分はそっちに移る事になっていたのだ。
 僕をいじめていた岩田やその仲間たちは全員揃って新しい小学校へ行き、残ったのは比較的仲の良い子ばかりだった。お陰で六年の時はいじめられることも無く、クラスのみんなと仲良く、楽しく過ごす事が出来た。
 しかし、中学に進学すればまた岩田たちと一緒になるのだ。中学でもいじめられるのだろうか、それが非常に心配だった。

 結論から言えば、そんな心配は無用だった。岩田なんて問題じゃなかった。中学ではもっとひどい事が僕を待っていた。いや、もっと「ひどい奴」と言うべきだろうか。
 

(続く)