【第十七回 第二部7 〜名画座〜】

  牧野君とは中2の時に同じクラスになるまでは一度も喋った事は無かったが、妙にウマが合い、すぐに仲良くなった。
 僕も牧野君も映画が大好きだったが、当時は衛星放送もレンタルビデオ店も無く、中学生が観る事のできる映画といえばテレビの洋画劇場か、数ヶ月遅れで公開される地元の映画館(当時は大都市でロードショー公開されてから地方で公開されるのが普通だった)くらいだった。

 そんなある日、牧野君が東京で映画を観ようと言い出した。公開されたばかりのSF超大作が地元の映画館に来るまで待ちきれないと言うのだ。もちろん僕に異存はなかった。

 二人とも東京へ行くのは初めて。電車で1時間程の距離だが、ちょっとした冒険気分だった。
 折角だから大きい映画館で観ようと選んだのが新宿ミラノ座。「ぴあ」の地図を頼りに探したが、いきなり新宿駅の出口を間違えてうろうろした挙句、歌舞伎町に迷い込みそうになったりと、着くまでは大変だったが、地元の映画館の十倍以上はあるスクリーンで観る映画は素晴らしかった。
  観終わってから、しばらく新宿の街を見て回った。初めて入ったウェンディーズでハンバーガーを食べると、二人とも帰りの交通費しか残ってなかったが、新宿は見た事のない物だらけで、歩いているだけで楽しかった。

 それからは、月に一度は二人で映画を観に行くようになった。といっても中学生の小遣いでは、毎回ロードショー館で観るという訳にはいかない。僕らがよく行ったのは、安い料金で古い映画を2〜3本立てで上映している名画座だった。
 「ぴあ」で「名作SF3本立て」や「ゾンビ映画特集」といった素敵な上映メニューを見つけ出し、路線図や地図を頼りにたどり着いたのは、大抵が小さなスクリーンの古びた映画館だったが、映画好きな人が集まる独特の雰囲気があった。
 午前中から夕方まで、半日ぶっ通しで映画を観るのはけっこう疲れたし、とんでもない駄作に当たる時もあったが、それでも次の日には休み時間に「ぴあ」を見ながら、二人で次回観に行く映画を検討するのだった。

 今でも映画は大好きだ。牧野君と通った名画座はほとんど閉館してしまったし、地元の映画館は綺麗なシネコンになり、わざわざ東京まで行かなくても新作が観られる。古い映画を観たければレンタルビデオ店に行けばいい。そんな今の映画ライフに全く不満は無いが、知らない街の小さな映画館でくだらないB級映画を観たい、なんて事をたまに思ったりもする。 

 
(続く)